第一話 「旅立ち」





 耳をいただいた方々。ひとりめ「icedoll」さん



 昨日のことだったのに、くわしい状況をおぼえてない。

 相手の特徴も、きれいに忘れた。

 はじめての人殺しだったので、とてもドキドキした。チャンスは何度もあっ

たけど、越えてはならない一線があるような気がして、おそいかかれなかっ

た。 

 勇気をふりしぼって、背後から×××した。 

 死体がぶざまに転がったはずだ。

 彼は「??」と言ってきた。たぶんぼくの行動を信じられなかったんだと

思う。2秒前までLowLevelを、ふたりで助け合って生きてきたから

ね。 

 擬似的な殺人だというのに、ぼくは動揺していた。シューティングゲーム

のザコ戦闘機なら、ぼくのゲームライフで何億何兆と撃墜してきたし「Qu

ake」でも平気でロケランを撃っていたのに。 

 なんだかナマモノを殺したような気がして、彼の「NAN NANO??」

という問いに「I AM EarCollecter」と、なぜか英語で答

えてしまった。 

 すると、彼は当然のようにLEFTした。 

 初めてのPartyKillだったので、「殺しただけで全アイテムを奪

える」と思いこんでいた。 

 自分で他のプレーヤーを殺しても、耳と相手が持っているゴールドの半分

が強奪できるだけで、プレイヤーは「モンスターに殺されないとアイテムを

バラまかない」と知ったのは、けっこう後だった。

 耳だけがぼくのとりぶんだった。 



 つづく


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