第10話 「男の戦い(後編)」



 耳をいただいた方々。はちにんめ「Cindy」さん(後編)



 単純に、おたがいの長所・短所をフォローしあうのがマルチプレイという

なら、今、おもいかえしてみても、あれほど最悪な「協力プレイ」はなかっ

た。

 ころあいをはかって、みんなで仲良くTOWNに帰ることすらしなかった。

だれかが脱出用のポータルを出して逃げこむと、わらわらとみんなタウンに

逃げてきたりした。つまり、そうならざるをえないほど、安定した「戦線」

すら作れないほどの、お粗末なチームワーク。

 各キャラのポテンシャルは、それほど低くなかったハズだから、もう互い

のプレイ(をする理由や事情)に問題があったとしか言えない。

 だから、この最悪のマルチプレイは、さまざま意味での、最高の思い出だ。



 ただの「共同作業」というマルチプレイを楽しみたい人間だったら、あま

りのデキの悪さに、とっととLEFTしていたレベルだ。やったら時間ばか

りを浪費する非効率的なプレイだったしね。しかし、そうならなかったのは、



★ぼくと相棒の場合:そもそもPKねらいだから、こういう、いつ誰が死ん

でもおかしくない状況は、リスキーなギャンブル。悪いとは言えない。ねが

わくば、K3とSECO死ね。



★SECOの場合(推測):G(ぼく)を殺したい。だからアホなマルチプ

レイにもつきあう。



★K3の場合(推測):じぶんよりレベルが低くて、ヘタな人間は大変だけ

どがんばろう。



 ってトコだろう。4人の参加者のうち、ぼくと相棒はワケアリだし、SE

COもワケアリだ(笑)。たまたま無関係(もともとのマトは彼なんだけど)

のK3が、いちばんレベルが高く余裕があったのが、このパーティーが崩壊

しなかった理由だろう。



 なにかの足しにでもなれば、と、戦士だから気持ちばかりのマナシールド

を張ってみるが、かんたんにATフィールドは中和・・もとい、マナシール

ドはふきとぶし、マナが70もないから維持するコストパフォーマンスも大

きい。しかしマナシールドがなければ、体感計測でSECOのファイヤーボー

ルは二発とたえられない。

 ぼくは、レベル20まで、レベルUPのときに、ヴァイタリティーを増加

させたことはない。PKたるもの、短期決戦攻撃力重視。すべてを、パワー

(STR)と、命中率(DEX)と、魔力(MAG)にそそぎこんでいた。

 マナシールドがあれば直撃でも、三発目がくるまえに、回復させるか、よ

ければOK。しかし、体力だけで受け止めようとすれば、ワンツーパンチの

クリーンヒットで死ぬ。

 SECOは、ぼくより4つレベルが下だ。しかし、本人も4つ下なのをわ

かっていて、さらに挑んできている。それなりの勝算があるのだろう。

 そのとうり。ぼくはジリ貧だった。



 レジストは、ライトニングが30数%あるだけ。ACは140あったか、

当時? 体力は、いっさいVITにボーナスポイントで配分したことないか

ら、同級戦士のアベレージの50−100ポイントほど下。

 前方からは「ねーちゃん」のブルードスターと、後ろからはSECOのファ

イヤーボール。つまり事実上のレジストは「0」。

 前門の「ねーちゃん」、後門の「SECO」。まったくもって打つ手なし。

 ちょいと足をとめて敵と殴り合って、後ろからSECOに一発もらい、つ

づいて敵になぐられていれば、アイテムをバラまいてしまう。

 ぼくは「こちら側の人間」同士の、納得づくの勝負だからこそ、SECO

には負けられない。ぼくは事故死や誤射による死でなく、物語のうえでの死

は「キャラクターの死」として、やめるつもりだ。負けたら引退。

 そして、この場合は、十分に「負けたら引退」のシチュエーションだ。



 SECOは感心するほど、自分の生存のために合理的なプレイスタイルを

貫いていた。いっさい前線にでない。もちろん、前線のキャラにヒールアザー

をかけてあげて、自分の持久力を落とすようなことはしない。たんたんと、

故意ともミスともいえないギリギリのコースに、ファイヤーボールを打つ。

 おまえは、敬遠するかデッドボールを投げるかだけのピッチャーか? 尊

敬するぜ。

 あたかも他のプレーヤーを愚かなゴーレムとみたてて、自分は手を汚さず

に、着々とクールに経験値をかせぐのか? それとも名前のとうりにセコい

ダケなのか? どちらにせよ、このままでは、こちらが死ぬことだけが確実

だ。

 SECOのレベルがひとつあがった。

 ぼくは、誰かが勝手にポータルをだしてTOWNに退却してないか? と

か、とにかく歩きまわって狙いをつけさせないとか、ようするに、生き残る

ためにオロオロしているばかりだった。

 ゲームがはじまり、かなりの時間が経過していたが、ぼくがSECOにつ

けこむスキも、チャンスもない。そもそもSECOは前線にいっさい出ない。

後ろで鼻くそほじりながら戦士ふたりを見物してやがる。ブっ殺してやりた

いが、アイテムをバラまかせるのが目的だから、相棒とふたりがかりで殺し

てもナンセンス。なめてかかれば返り討ちにされかねない。

 ちなみに、ぼくの相棒は何をしていたか? って?

 彼女は、SECOの後ろというか隣で、テキトーに弓をうっているプレイ

スタイルを確立していた。ぼくが、「たすけろよ! こっちはいそがしいん

だよ! フォローしろ。でなきゃ、SECO殺せ! 相棒だろ!」と言った

ら、

 「え、そんなの危ないじゃん」

 だって。

 そういや、ぼく、いままで彼女にヒールアザーとか、かけてもらったこと

ないんだよね。



 SECOが「ポーションが切れたから、TOWNに帰りたい」と言った。

 ぼくは、とにかく、このいまわしいHELLから出ることができてOKし

たし、他も意義はなかったろう。もどるとTOWNがお花畑に見えたよ。

 そして、TOWNで補給していたが、まるでSECO攻略の糸口もつかめ

ず、ふたたびポータルをくぐるのが、とてつもなくイヤだった。

 殺されに行くようなものじゃないか? レベルが3つ下とはいえ、魔法使

いがここまで脅威とは・・・。

 あれから何回、みんなとばらばらとTOWNに逃げ帰ったり、イヤな思い

をしてポータルをくぐっていただろう。

 これほど死にかけた冒険は、はじめてだ。まだ生きているのが不思議なく

らいだ。

 ベタオリしかできない麻雀を一晩中ぶつ感覚。

 わかりかけていたのは、やはり魔術師のSECOは、若干、他のメンバー

よりも早めのリズムでポーションを補給したがる、ということぐらいだ。

 だから、ほんのわずかでも、相手より勝る部分があれば、倒せない相手で

はない、という希望だけでゲームをつづけていた。こちらもたいして強くは

ないが、しょせん相手はL19の魔術師であり、ぼくには、本当にただいる

だけだが、相棒もいる。ただいるだけだけど、いちおう2人がかりだ。チャ

ンスはあるはずだ。

 しかし、ねっとりとした時間だけがすぎていくように感じていた。



 ぼくは、K3を、SECOへのカベとして使うことを思いついた。ふつう

は、戦士のカベ(前線)の後ろにローグや魔術師がいるものだが、ぼくは、

K3を中心として、SECOと対角線上になる位置取りを慣行。

 それは、K3ですらキツそうな、ヘルの前衛をぼくひとりでやる、という

ことも意味していた。事実上、つねにK3より前に出ていなければいけない

し、K3が負けじと前にでてくれば、ぼくはさらにその前を、そして前線は

拡大する。

 しかも、ただ最前線に出るのでなく、SECO−K3−G(ぼく)という

対角ラインをとりつづける、というのは、単純にSECOのファイヤーボー

ル対策で、SECOもK3をまきこまないだろうから効果的だったが、通常

の「戦闘効率のためのフォーメーション」とは、まるで関係なく「ぼくのい

るべき位置」は決定されていく。

 それは、ぼくが前線で孤立して己の装備をバラまき絶命する危険性でもあ

る。

 敵は「ナイト」系と「ファイヤーボール爺」。ぼくは最前戦で、命のツナ

ワタリをつづけた。ジジイのファイヤーボールを可能なかぎりかわしつづけ、

ナイトにはヒット&アウェイを、最後の精神力をふりしぼって最前線で踊り

つづけた。

 かつて体験したことがない長時間の変則プレイと「PK戦」の緊張から、

ぼくは精神力を削りながら戦っていた。これはもう、どちらが先にネをあげ

るかの根気の勝負だ。

 ニブい相棒ですら、ジリ貧のぼくがヤケになったのか? と心配してる。

 しかし、これは賭けだ!

 アホな男が、勝手に敵のドまん中で自滅するか、それとも・・一発逆転で

きるか、の賭けだ!



 チャンスは来た。

 戦闘がちょっとやんだとき、SECOが「ポーション切れた」だって。そ

うだよ。これを待っていたんだ。ぼくは、Fullマナポーションをいくつ

か投げた。

 いままで、まるで役に立たなかった相棒も、SECOにポーションをくれ

てやっていた。はじめて相棒と、目と目で通じ合えた。

 SECOは礼もいわずに拾った。

 そうだ、SECO。「プレゼント」はありがたく受け取れ。ドロボーから

タダでものがもらえるなんて「幸運」だぜ、味わって飲みほせ・・・。

 しかし、だが、ひとつ覚えておけ。バウンディーハンターであろうと強盗

だろうが、PKをねらうなら、ポーションがきれたら、何も言わずにTOW

Nに帰れ。「あとポーションいくつぶん動けるか」敵にさとられるな。ぼく

はキサマの残りカロリーがわかる。ぼくは、いままでのキサマのデータと照

合して、あと「ポーションいくつぶん動けるのか」正確な情報を、今、つか

んだぞ・・・。



 ぼくと相棒は、TOWNに帰りたがるSECOを無視するようにヘルの、

さらに奥のほうに足をすすめた。あと、ちょっとくらいいいかな、と思った

のか、SECOもついてきた。

 ポーションもらっちゃったから、すぐ帰るのも、場の雰囲気ってモンがあ

るしね。

 そして、次の戦闘が始まって、すこしした時、ぼくと相棒は、もう、やる

ことはわかっていた。ぼくと相棒は、ダンジョンを走りまわった! そして、

ギリギリまで敵陣にきりこみ、できるだけ多く敵を刺激すると、あっさり、

全力で逃げ帰ってきたね。そして、ぼくと相棒が「つれてきた」モンスター

が、ヤツの視界をおおいつくしたろうさ!

 SECO、キサマが絶対に前線に出ないならいいだろう、ダンジョンすべ

てを「前線」にするまでだ! イキのいいバケモノどもを「スカウト」して

きたやったぜ! 見るがいい、この大群をッ! 知るがいい地獄の最前線をッ!

 ぼくも残りのポーションなんてない。この、まさに地獄を生き残るために、

ぼくと相棒は運を天にまかせて敵を蹴散らし、K3もまわりを囲んだ敵を必

死に迎撃していた。SECOは姿はぼくの位置からでは見えない。ぼくの視

界には、ただただモンスターがウジャウジャいる。だが、ぼくの「予測」で

は、キサマの残り活動時間は・・・ッ!?

 魔術師の断末魔が聞こえた。

 そうだ。計算どうりだ。

「死んだ〜」

 SECOのMESが画面にながれた。

 SECOの死体を確認した。死体のわきにポータルが出ていた。緊急脱出

が間に合わなかったようだ。

 いいかSECO。その死は、偶然の事故でなく、れっきとした「殺人」だ。

 おまえは、おれに殺されたんだ。

 そして、キサマを殺したおれの名前を忘れるな。

 おれの名前は「Gebaluto」だ!



 SECOが死に、ぼくが心の中で勝利を宣言し、戦闘が一段落つくと、ぼ

くと相棒とK3は、安全地帯へ撤退した。さあ、あとは、ぼくと相棒でK3

に不意打ちかまして、SECOのアイテムいただいてトンズラするぜ! 

 K3も油断しきっているのか余力がないのか? 残りの体力は半分ほどな

のに、回復させてない。このさいK3の装備は見送りだ。SECOの装備さ

えGETすりゃ、今日の稼ぎは十分だ。

 ぼくは「グレートAXEヘイスト」、相棒は「ボーンスピリット」から「

ファイヤーボール」のコンビネーションで、同時にK3をねらう。K3は何

かMESでも打ちこんでいるのか、かたまっていた。

 ぼくと相棒が、K3に襲いかかろうとした、その刹那ッ!

「ここ16階だから、再スタートしても大丈夫だよ。アイテムはなくならな

い」

 はぁ?

 ぼくと相棒は、K3がSECOに言ったことが理解できなかった。

「え? そうなの?」

 SECOも要領を得ていないようだった。

 さらにワケがわからないのは、こっちのほうだ。16階だとアイテムをま

き散らさない? なにそれ?

「あ、ほんとだ! アイテム全部ある」

 SECOが喜んでいた。ぼくと相棒は、いまだに目をパチパチさせてんの。

 ぼくは、SECOの死体があった場所に行ってみた。たしかに、キレイさっ

ぱりなにもない。

 なにそれ? 16階で死んでもアイテムバラまかない? へ? 聞いてねー

よ! そんな、ココが何階かなんて忘れるほど「濃い」バトルだったんだよ!

ラザレスなんて、いつ倒してアイテムはなに出したんだよ? 覚えてねーよ!

ヘルにくるのも、これで3度目か4度目だよ! なんだそりゃー!!!

 あのゲロ最悪なチームプレイを3時間も続けたぼくの根性は! K3を支

点にSECOとの対角をとるという、ぼくのとっさのひらめきは! レベル

22でヘルの前衛をはってたぼくのテクは! 肉を切らせて骨をたつ「バケ

モノ御一行リクルート」のリスクと、大バクチへの決断をしたぼくの度胸は!

ラストの大乱闘を切り抜けたぼくの闘志は! ぜってー納得いかねぇ、やっ

てられるか!フザけんなッ!!

 冗談いけねえよ。

 ンなことしても、だれも評価してくれねーんだから、せめてアイテム盗ま

せてくれよ神様ッ!!



 あとから考えたら、誰かが16階でアイテムをバラまいた直後に、だれか

がディアブロを倒してエンディングになってしまったら、ルームをうしなっ

て、ロストアイテムになるから、システム的に16階での「アイテムをまき

散らさない」は理解できるが、その時はサギにあった気分だったね! ケッ!!

 TOWNに帰って、再スタートしていたSECOも含めて、このあとどう

するかみんなで話したけど、0.5秒で結論でたよ、全員一致で解散したわ

いコンチクショーッ!!



 次の日、Cindyさんをナンパして、ナイトメアのカタコンベで丸裸に

なったところを強姦。

 すべてのアイテムを強奪して去っていくぼくの背中に、彼女がひとこと、

「かんべんしてー」

 と言った。

 おれにホレちゃあいけねぇよ。



 つづく


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