第9話 「男の戦い(前編)」



 耳をいただいた方々。はちにんめ「Cindy」さん(前編)



 その時のぼくは、レベル22のかけだしファイターだった。

 ぼくより4つほどのレベルが下のローグの相棒・A(仮名)と、良からぬ

家業にいそしんでいた。

 たしか、その時より3つレベル前におきた「全アイテム紛失」の後遺症も、

ほぼ完璧にふりきり、レベル22にふさわしい装備になっていたはずだ。

 このまえは、まったく役に立たない相棒ぶりを発揮してくれたズベ公だが、

今度こそがんばると言うので、ふたりでLv25の戦士に目をつけて、誘わ

せた。

 そのK3という戦士は、自分より7つ下のレベルのローグに誘われて、い

やな気がしなかったらしく、即OKした。

 つづいて「うちあわせどうり」、ぼくもいいですか? とぼくが言った時

に、Kさんが、どう思ったかは知らないけどね、と、ぼくがほくそ笑んでい

ると、唐突に、レベル18の魔術師、SECOが、「わたしも連れていって

ください」と言った。

 その魔術師の申し出に、ぼくはいろいろ意味で、OKを即答せねばならな

かった。

 ぼくは、SECOのことを知っている。

 以前、ぼくがローレベルで強盗をくりかえしていた無名のころ、「ゲバル

トげばる(笑)?」「ゲバルトげばると(笑)!」なんて、意味深なことを

ウィスパーしてきた過去がある。

 まだ3人しか殺していないのに、ぼくをマークしているヤツがいると、と

ても印象ぶかく覚えていた。

 ともかく、4人がルームにJOINした。

 これは、ぼくにとってはじめての「ぼくを知っている者との」冒険となり、

また、ぼくにとって忘れられぬ一夜になるとは、この時点では想像できなかっ

た。



 ぼくたちがノーマル/ヘルに行ったのは、L25戦士(K3)、L22戦

士(ぼく)、L18ローグ(相棒)、L18魔術師(SECO)の組み合わ

せだから、息のあった者どうしならば、すこし余裕のある順当な選択だ。

 ぼくは、SECOの参入にイヤな感じはしていたものの、リーダー格のK

3をフォローするような感じで立ち回り、とりこぼしをローグと魔法使いが

処理し、また、ローグと魔法使いは、飛び道具を効果的につかい、戦士ふた

りの露払いやフォローをしてくれた。

 非常に息のあったパーティーで、ぼくは、「グレートアックスヘイスト」

に切り替えた。これだけ息のあったコンビネーションなら、「個人」のAC

を落としてでも攻撃力・瞬発力を高め、「チームの総合の」アーマークラス

をあげたほうが効率的と判断した。これが効果的な武器のアタッチメントっ

てモンさ。

 ぼくは、ひさびさに、1+1が2にも3にも4にもなる協力プレイの楽し

さにとりつかれた。

 もちろん、標的のK3をマークすることも忘れない。逆説的だが、徹底的

にマトのためにつくすことこそ、マトを倒す秘訣だ。なぜなら、コンビネー

ションが最もとれている時の「全」体のパーツである「個」は、同時に「全」

体の相乗効果の恩恵を「個」自身の力と誤解し油断し、また、「全」体のた

めの「個」体の行動パターンは、「個」単体の(生存)効率のための行動パ

ターンとはギャップが生まれているからだ。

「ひとりはみんなのために。みんなはひとりのために」が「全」体の効率と

いうことにおいては真理である。ならば、みんなの中のひとりを倒すための

真理は「みんなのためから、自分のためにと唐突に裏切り、そのギャップを

つくこと」と導きだされる。

 話がそれた。

 ともかく、単純に油断させるためにも、PKのためには協力プレイが大切

だということで、このときは、そうしていた。そして、あっというまにノー

マル/ヘルの13階が終了。階段を降りると、「ねーちゃん」がボチボチで

てきた。

 そして、悪夢がはじまった。



 戦士のシングルプレイでの「ねーちゃん」対策は、おびき出して、迎撃。

とりこぼしをストーンカース。つまり、迎撃と効率的な魔法の使用がセオリー。

 しかし、いまのぼくたちのパーティーだと、皮肉なことに「バランスが良

すぎる」ために、けっこう気ままにやってOK状態。セオリー(秩序)を徹

底させることによって、無秩序を誘因するという逆説。ゆえに奥が深いゲー

ムだが、とにかく、みんながバラバラに動きはじめた。

 乱戦でSECOのファイヤーボールが、ぼくに当たった。たまたまベルト

のポーションを使おうとしたタイミングだったので、即、全快。しかし、間

髪いれずに次弾も命中! ライフが半分になった。もし、たまたまポーショ

ンを使っていなかったら、死んでいた。でも、こんなことは、よくある。

 たいして気にしないでプレイ続行したら、つづいてまた当たった! 今の

は、どう考えてもファイヤーボールのタイミングじゃないぞ。画面に一匹し

か「ねーちゃん」がいないなら、ふつう戦士にまかせるだろう。

 ぼくは、武器をアックスから、ライトニングソードスピードと、ラピスシー

ルドに切り替えた。敵が直接攻撃系より、飛び道具系がふえたなら、攻撃力

と瞬発力よりも、ACとレジストを重視すべし。

 そして、SECOを警戒すべし。



 ぼくたちのパーティーの無秩序ぶりは、ますます激しくなっていった。

 まず、K3のサポートに徹していたぼくが、ほんのちょびっとでもダメー

ジを追ったら戦線を離脱してしまうこと。ぼくは、行動のウエイトを、チー

ムのためにから、自分の生存へとシフトした。サッカーでいえばミッドフィ

ルダーの崩壊。それにともない、前線を突破するモンスターが増え、相棒の

ローグも、前線をサポートするどころか、自分の命の維持でせいいっぱい。

ディフェンダーの混乱。そして乱戦になれば、必然的に魔法使いのファイヤー

ボールの連発もはげしくなり、乱戦は乱戦を生み、前線のわれわれにもダメー

ジを与えた。ぼくも戦闘どころか生命維持で手いっぱいになり、K3もバッ

クアップのない前衛として、モタつきだす悪循環。

 キーパーが正しく機能しなければ、そもそもフォワードもMDもDFもな

い。

 さらには、そのキーパーが「自殺点」ねらいだとしたら?

 ま、「自殺点=PK」ねらいは、おあいこかもしれない。たぶんSECO

は、ただ普通の協力プレイのみに甘んじるカタギとはちがう「こちら側の人

間」なのだろう。そして、「こちら側の人間」のはずのSECOよ、おまえ

は、ぼくの敵なのか味方なのか中立なのか? PKのぼくと、あえてプレイ

したがっていたおまえは、いっしょにPKしたいのか? それともボクをね

らっているのか?

 ぼくの精神的な視界には、すでにK3の姿はない。自分より4レベル低い

魔術師のSECOだけがいる。



 マウスが油汗でベトベトになっていた。ここまでパーフェクトに歯車がか

みあっていないパーティーは、はじめて体験した。よくヘタな協力プレイを

「ワンマンプレイにつきあわされてつまらない、とか、バラバラに動きまわっ

て戦闘効率が、ひとりでやってるときと変わらない」と言われるが、今は、

「シングルプレイのほうが、よっぽど簡単」といえるほどの、バッド・コミュ

ニケーション。つらい。

 そして、SECOとの腹のさぐりあいの心理戦のプレッシャーは、さらに

キツイ。

 すでに、SECOのファイヤーボールは、ぼくを5.6回とらえていた。

SECOはたぶん「ぼくの相棒」とは知らないだろうけど、ぼくの相棒に2

回、そしてK3にも1回くらいは当たっている。

 ぼくを殺すつもりだからこそ、もうすこし、他のキャラにも「誤射」する

べきだ。意図がみすかされるぜ。

 ぼくの相棒は、SECOの攻撃をくらうたびに「痛い!」と言っている。

 通常、他のプレーヤーに文句を言われるまでもなく、ふつうのプレーヤー

だったら神経質なまでに誤射をいちいち謝るものだ。しかし、SECOは無

言。

 K3の、ファイヤーボール連発するなという意味でのセリフ、「ストーン

カースないの?」という問いにも「無いです」だけ。

 せめて、なにもしない、ということをしてくれればいいのに、まだファイ

ヤーボールを不自然に使い続けている。

 そうか。はっきりしたよ。

 ぼくも、「こちら側の人間」が相手なら、善人をだまし討ちする後ろめた

さがなくて助かるってものさ。おたがいが納得ずくでやるんだろ。おもしろ

いじゃないか。



(後編につづく)


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