第8話 「極秘指令パピヨン!」


 耳をいただいた方々。ななにんめ「BIBI」さん:



 dotがつくレベルの年頃では、魔法使いがこわい。 

 聞いた話では、対・魔法使いに有効な作戦は「階段で待つ」だそうだ。同

時に階段に入っても、回線やマシン環境で、フロアにあらわれるスピードが

ちがう。おもに、各マシンのCD読みこみの差だろうから、高速ドライブを

使用して、「マト」よりもはやく異動先のフロアに移動しておいて、マナシー

ルドを使用する前に叩く。Firewallを一面にひいておくとか。 

 敵の密集地にタウンポータルを出しておくのも、古典的な手だそうな。

 でもそれはPKの場合で、ぼくのように「アイテムをバラまかせるのが目

的」では使えない。中上級の魔法使いに対して、それをやろうとするのは、

さらに難しい。 

 通常、魔法使いは前線の後ろにいるし、マナシールドをはられてしまうと 

体力の増減がつかめないから、得られる情報も少なくなる。 

 でも、そろそろ魔術師攻略法を考えにゃいかんな〜、と、I(仮名)とい 

う僕より2つレベルが上のソーサーラーと、とりあえずプレイすることにし 

た。強盗できなくても、とりあえず、対・魔法使い対策の糸口をさがすため 

だ。 

 しかし、I(仮名)は、マナシールドも使わずにノーマルのHellの1 

3−15を走破。その間、受けた全ダメージは7POINTだけ。とくに1 

5階では、サキュバスの光玉を何発くらおうが、ナイトにかこまれてタコな 

ぐりにされようが、1POINTもダメージを受けなかった。 

 ぼくが疑問に思って聞いてみると、I(仮名)は、「アーマークラスが2 

62あるから」と言った。ACが高いと、全弾よけられるのか? 攻撃が全 

部無効になるのか? いや、それ以前にぼくとほぼ同レベルでAC262の

装備が、どうやったらあつまるんだ。しかも魔法使いで。 

 僕は純粋に驚いた、が、今考えてみると、どうもチーターだったようだ。 

時間をムダにした。 

 でも、その時点では驚いていたので、「ACが262あれば、ノーマルの 

Hellで無敵になれるのか?」とチャットルームで聞いてまわった。この 

ゲームの進行のポイントが、そんなにもACにおかれているのか? と疑問 

に思ったからだ。 

 いろんな人に聞いてまわった結果、「Diablo」というゲームは、プ

レイする上で、アーマークラスが非常に重要な位置をしめていることがわかっ

た(たとえば、すばやく動いて攻撃をかわしまくるキャラは存在しないよう

だ)。 

 で、その時、ぼくの質問に詳しく答えてくれたのが、ASUGAさんだっ 

た。 

 断っておくけど、このエピソードは「複線」だ。 

 ちょっとした後、ASUGAさんが「G(ぼく)さん、5分ほど時間もら

えない?」と言ってきた。 

 え? なにごと!? ぼくを5分で殺すの!? そりゃ、あんたのそのレ 

ベルのソーサーラーなら可能かもしれないけれど・・・と、勝手にかんぐっ

ていると、「別のキャラにアイテムを移したいから、その間、部屋を維持し

ておいてくれないかな?」との要望。 

 チャーンス! ASUGAさんがアイテムを地面においてレフトしたら、 

ASUGAさんが別のキャラでJOINしてくる前に、全部いただいちゃお! 

 カモがネギしょってやってくる! 盗人に蔵の番! と僕がウキウキして 

部屋を作って待っていると、ASUGAさんは、ユニークアイテムやゴール 

ドやブックを置いていった。 

 うーん。ユニークアイテムはコレクターでもないかぎり、場所だけとって 

非実用的だし、売ってもやすいものがほとんど。ゴールドは2万ポッチ、ブッ 

クはスペルレベルの低いものばっかり。 

 ぼくは、「Encanted Shrine」という祭壇をみつけると、 

喜びいさんでトライするので、スペルレベルは低くない。「Encanted 

Shrine」というのは、ランダムでひとつのスペルレベルが低下し、残 

りは全部1レベルUPというチョーハツしているやつだ。さあ、みんなも、 

おさわりおさわりッ。 

 話がそれた。そういや、僕のチーター疑惑に答えてくれたASUGAさん 

だし(というより魅力的なアイテムじゃないし)、盗むのはやめよう、と僕 

はタウンでボーっとしていた。 

 ASUGAさんが、こんどはレベル34.5の戦士で入ってきて、今度は

リングやエリクサーをバラまいてでていった。 

 ウキキキキキーッ! これはチョーハツ的だ! さそっているネ。ゾディ

アックリングや、各スキルを+20〜30する色々なリングがよりどりみど

り。 

 全部で40個ちかくのアイテムだけど、まずリングをちょっぱって、エリ

クサーをグビグビ全部飲んで、そのいきおいでBOOKをよみよみして、ユ

ニークアイテムは売り飛ばせば、場所もかさまないかな。 

 僕は沖縄の少女をみつめる嘉手納基地のニガーのように、ピュアな視線を 

アイテムにそそいだ。ザッツライッ! 

 だけど、どーも「OBSIDIAN RING OF ZODIAC」と 

いうリングがひっかかる。できすぎだ。これ、DUPEアイテムじゃねーの? 

とたんに、ぼくは、冷めた。 

 僕は誇り高き卑怯者だ。いっさいの「チートくさい」ことには関与せん、 

近づかん! 

 エイズのロリータはレイプしないのが賢いニガーってもんさ。 

 ってなワケで、地面におかれたアイテムの畑の管理人をしていたぼくだけ 

どASUGAさんが、やけに遅い! 何やってんだウスノロ。さっさとDU 

PEアイテム使って強いキャラ育てやがれ! 

 マジいつまでも来ないので、僕がイライラしていると、ASUGAさんが

「わたしがアイテム渡したいのはレベル1のキャラだから、ナイトメアのこ

の部屋に入れません」だって。あべし! アイテムのひっこし全部やりなお

しかい。そりゃ、てきとうーにナイトメアでクリエイトした僕もわるいケド。 

 この部屋のアイテムを、また、ひとつひとつ戻して、新しい部屋つくって、 

受け渡しを再開か。フザケンなコナロー!! 

 僕はいそがしいの! PKしなくちゃいけないの。ぼくにアイテムまきあ 

げられて殺されることを夢見てウズウズしている子たちが待っているんだか 

ら! はやくみんなのトコに行かなくちゃ!  

 と思ったけど、結局、ぜんぶつきあいました。 

 ASUGAさんは、お礼に、「ドゥームブリンガー」とかいう剣と、よろ 

いをくれる、と言ったけど、ぼくは、「アイテムを人からもらわないのは僕 

のポリシーだから」と、消えるようにLEFTした。 

 別にカッコつけてるわけじゃなくて、結果として1時間ちかくASUGA 

さんのひっこしにつきあわされて、さっさとオサラバしたかったダケだけど 

ね。 

 あのアイテムたちを、ちゃんと殺して奪い取ろうと思いつつ。 



 次の日、Sさん(仮名:戦士)をターゲットにして、ふたりきりでノーマ 

ルヘルにもぐりこんだ。ぼくよりレベルがひとつ下で、冒険中に、レベルが 

並んだ。そろそろ動くか、と僕が思っていると、Sさんが大量の敵に追いつ 

められるように囲まれて死亡。ぼくが、戦うような戦わないような後退をし

たため、せまく長い廊下で、大量のサキュバスと炎はいてくるデーモンに殺

された。僕は悠々と体力を回復・・・あり、回復しないッ!? つづいて死

亡。このゲームで初めて死んだ! 全滅!! 

 いつのまにかリターンキーを押していたらしく、メッセージ欄に「888 

888888888888」と入っている。ベルトのPOTIONが入って 

いるテンキーの8をむなしく押していた。なさけねぇ。 

 自分のミスで死んだ以上、いさぎよく、LEFTして、またアイテムをイ

チからあつめるか、いや、もう、このキャラ使うのやめようか・・・。迷っ

た僕の決断は・・・ッ! 



G(ぼく):「S(仮名)さん、チャットルーム行ってHELP呼んできて。

      ぼくが残るから」 

S    :「わかりました」 



 ま、ぼくがチャットでたすけをもとめても、だれも助けてくれそうにない

し、恥ずかしいし、ここは静かに真っ赤な視界に甘んじよう。 

 と、待っていたら、ぼくたちよりひとまわりレベルの大きい戦士と、AS 

UGAさんのふたりと、同じく死んだSさん(仮名)がJOINしてきた。 

どうやらSさん(仮名)とASUGAさんが親しかったのか?  

 たすけがほしかったけど、実際にたすけが来てみると、僕はゾっとした。 

 もし僕のこと知っていたらどうしよう・・・。リザレクトかけられた後、

殺されたりしないかな? 

 彼らが、ぼくの、赤く動けない視界の中で、敵をバシバシたおしていた。

ぼく、これからどうなっちゃうんだろう。ぼくの散らばっているアイテム、

ぜんぶ取ってバイバイ、とかやられたらヤだな。いつもぼくがやっているん

だけど・・・。全部アイテム失う苦しみは、イヤってほど味わっている。 

 PKの復讐されたらどうしよう。しかも決闘でもなんでもなく、こんなナ 

サケナイかたちで・・。 

 彼らヘルパーがJOINしてからというもの、ぼくにとって、とてつもな 

く気まずい時間がすぎていった。いさぎよくLEFTするべきだったか・・。 

 と、ぼくがディスプレイの前で悶絶していると、彼らはぼくを生き返らせ

てくれてHealOtherをかけてくれた。ぼくは、生き返ると同時に、

体力マナ全回復のPOTIONつかって、殺されそうになったら、ポータル 

出して逃げる用意もしてあったけど。 

 とても親切なヘルパーたちで、みつからないアイテムを投げてくれたりし 

た。ぼくは、はずかしいというか、なんというかフクザツな気分でアイテム 

をかきあつめていた。 

 全てのアイテムがもどった以上、ここで、この助けてくれたヘルパーふた 

りに玉砕覚悟のアタックをかけるべきか。ぼくのブザマな姿をみたこいつら

を生かしてはおけない。死んだくせに、このままおめおめゲームしてられっ

か! 俺に生き恥をさらさせやがって! いっそ殺してくれ!! 怠惰な生

よりも高貴な死を! おれは、やつらにこう言ってやったね。 



G(ぼく):「ありがとうございました」 

ASUGA:「いえいえ。困った時はおたがいさまですよ」 


 それにしても、昨日、ASUGAさんのアイテム万引きしなくて良かった! 

 もし、万引きしていて、昨日の今日で、ASUGAさんとの再開がおこっ 

ていたら、きっと、ASUGAさんは「おやおや、昨日わたしのアイテムを 

盗んで逃げたG(ぼく)くんじゃないか。死んでアイテムばらまいているの

かね。ふむ、どれどれ」と、なにもできない僕の股間をたんねんにねぶった

にちがいない。 

 あー怖かった。 

 やっぱ人間たすけあって生きていくべきだね。情けは人のためならず。い 

いことをしておくと、めぐりめぐって自分に帰ってくる、否、人のためにな 

る生き方をしなければ、決して、自分のためにもならない、という真理が、 

そこにはある・・・・とは全然おもいましぇ〜ん!! 

 生き返してもらってラッキーッ! 装備なくさなくてバンザーイ! 強く 

なって、ぜったい復讐してやるもんね。ガンガン人殺して、装備かためて、 

全員ひれふせさせてやるぅぅぅぅぅッ! 



 初めて死んだ日の翌日、ウィスパーで、ぼくよりレベルが1つ低いBIB 

Iさんを誘いだして、ふたりでノーマルのHELLへGO! サキュバスの 

赤青黄色の光の玉が飛び交う中、もはやルーチンワークの「混戦で一撃」い 

れてアイテムをバラまかせたあと、リザレクトからの即殺。 

 ぼくは「まわりの敵をかたずけてくる」なんつって、彼の全アイテムが持 

てるようにPOTIONを使いきって自分の荷物整理して、敵と戦うフリを

して、彼のアイテムをかき集めておいたり、てぎわも良くなっていた。 

 ぼくに殺されたBIBIさんは、 



BIBI :「え? なにするの?」 

G(ぼく):「ごめんね。ぼくドロボーなの」 

 (しばらく間があって) 

BIBI:「ふむ。がんばってね」 



 とLEFTした。 

 だんがー、このBIBIさんのアイテム「King`s Sword Of 

Heavn」だの「Godly PLATE」だの「Godly Shie 

ld」だの、「いかにも」なのばっか! たぶん、彼のプレイ中の無邪気な 

会話からしても、何も知らないうちに、「DUPEアイテムみんなにあげて 

人気者になろうとする」糞馬鹿チーター野郎にもらったにちがいない。そん 

なことだから、「突撃」しか戦術おぼえなかったんだよ。 

 僕は、彼のアイテムは、まるごと売却することにした。 

 DUPEアイテムは、もらって使うのは当然として売ることもいけない、 

という意見があって、これは一理あるが、ぼくはDUPEアイテム使ってい 

る強いキャラを(最低の方法で)倒した。報奨金としてもらうことにする。 



 ぼくはチーターもDUPEアイテムユーザーも嫌いだ。だが、そういう遊 

び方、ハッカーのようにプログラム制作競争みたいなものもあるだろうし、 

やめさせる実行力もない。またチーター是非論争をする気もない。 

 バランスの悪いシングルゲームを改造して遊ぶならともかく、パブリック 

ゲームにチートもちこむ根性は卑下しているけど、それもまた「不条理な現 

実」を模写しているネットワークゲームとしては、おもしろいと思う。わた 

したちの生活しているリアルな現実も、コネや権力・家柄才能だとかの「チー 

ト」に支配されているわけだ。 

 ぼくはただ、リアルな現実の世界と同じように、自分で納得できることす 

るだけさ。 



 つづく

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