第7話 「地底の魔獣」


 耳をいただいた方々。ろくにんめ「Lion」さん:



 前回からレベルが5−6もあがっているのに、その間に殺せたのは、わず

かひとり。名前が知られて日本人に相手にされず商売あがったりだし、パブ

リックにはチーター来るし。 

 まったく、チートは「礼を逸する行為」です。Quakeで、自分のロケ 

ランだけが連射できたり、QUADかかりっぱなし改造して勝ってうれしい 

か? それは、非難ゴーゴーというより、ゲームじゃないよ。なぜディアブ

ロのチートにはみんな寛大なのか? 



 話はかわって、ぼくは日本人はPKしてきたけど、外人とは、E−MAI

Lアドレスを交換するくらい仲良くプレイするので、ちょっと強くなってい

た。 

 さて、そろそろ日本人殺すかと思っていたら、ガーンッ! 「WINDO

WSが不正な処理をしました」だって。いきなり、ひとりで遊んでいたマル

チプレイを叩き落とされ、アイテム丸ごと全部消えた! 

 ぼくは不正な行為はしてるけど、不正な処理はしてないよーッ!!  

 大ショック。ぼくが真面目に人から奪ってきた装備がぁ。ほんとにひとつ 

も残っていない。ある意味、キャラクターと装備に、思い入れが一番つよい 

のは、ファンタジーオタクじゃなくて、ぼくなのに・・・。チートもDUP 

Eもせずに、一度も死なずに、自分の力だけで(奪ってかき)あつめてきた 

装備がッ!! 

 ド畜生ッ! こうなったのも全て日本人のせいだ! やつら皆殺しにして

やる! きさまらの、その腐った根性を叩きなおしてやるッ!! 

 と、勝手に逆恨みモード入ってみたものの、すっぱだかになると全然ダメ。 

CAVEをひとりで制覇できていたのに、ベーシックアイテムだけだと、カ 

タコンベで逃げまくるザマなのね。装備を失うとこんなものか。 

 この苦しみは日本人全員に味あわせてやる。すべてを失った男の怖さを教 

えてやる。っと思ったけど、すべてを失うと「ただ弱いだけ」だった。 

 現実は、PKどころじゃない。 

 だいたい、ぼくのデータがふっとんでも「因果応報」と言われるだけで、 

だれにも同情してもらえない。ぼくの末路は、バウンディーハンターにでも

殺されるのかと思っていたけど、まさか、こんな「大団円」がまっていると

は。 

 まるで宮崎アニメのような感動的なラストだ。 

 しょうがないから、パスワードをかけた部屋でノーマルの教会からスター 

ト。それでも弱いことが身にしみる。FireWallだけが、ぼくのトモ

ダチ。 

 直接攻撃の威力は、かなりアイテムにたよらなければ上昇しないとわかっ 

て、いままで苦手にしていた魔法系の「+MAGIC」のアイテムでかため 

て急場をしのいだ。で、これを機会に今まで覚えてなかった魔法やLow

LevelのBookをくりかえし読む。おかげでキャラに厚みができた。 

 転んではただではおきない。そして全員ころばせる、のが我が盗賊団の家 

訓ナリ。 



 いまだにレベルのわりに弱いし、キャラの表示グラフィックは初期状態だ 

が、相棒のA(仮名)と共同でPKすることにした。ふたりがかりならなん

とかなるだろう。で、身ぐるみはいだアイテムで装備かためちゃおうっと。 

 まだ名前が知られていないA(仮名)に、チャットルームで人をあつめて

もらって、2名ほど名乗り出た後、ぼくも他人をよそおい参加表明した。

 だけど、この時のA(仮名)の、手はずが悪くて、自分で部屋をクリエイ

トして、さっさと行っちまいやがんの。 

 なぜこれがマズイのかと言うと、PKとして名前が知られると、たとえこ 

ちらを知らない人間をうまく誘い出せても、まわりの人間が「あなたがプレ 

イしようとしている**は実はPKだよ」とWhisperしてしまうおそ 

れがあるから。 

 標的より先にCHATルームを出ないこと。 



 ぼくは、獲物を誘い出して部屋で待っていたら、そいつがぼくよりレベル 

が8つ上の魔法使いといっしょに入ってきた、という経験がある。 

 その時は、もう向こうが完全にこちらを知っていて、逆PKを狙ってた。

 なんの脈絡もなく「UMAKUIKUKANA(^^;」とかMESが来た。

たぶんWhisper失敗したセリフだ。ぼくが誘ったマトが、逆に強い人

間と共にふたりがかりでぼくを返り討ちしようとサクボーし、それが「うま

くいくかな(^^;」というトコだろう。 

 この「Whisperもれ」がなかったら、ノコノコついていく可能性が 

大きかった。 

 わざとらしく「まちがえて魔法があたったらゴメンね」だって。 

 そして、TOWNに入ったらエリクサーを2つくれた。「はやく行こう」 

なんてせかしてんの。

 どっちがおびき出されているのかわからない。

 さすがに、そのときはエリクサーを飲んでTOWNからバックレた。情け

ないコソドロの気分を味わった。 

 話をもどす。とにかく「人殺し処女」のAは手際が悪い。 

 PKを狙う場合、「マト」に部屋をつくらせるのは基本だ、基本! 



 実際、ぼくが参加表明すると、ふたりとも、なかなかJOINしようとし 

ない。僕のことを知っていれば、僕よりレベルが2つ(もうひとりは5つ) 

低い彼らは来ないだろう。 

 5分ほどしてから、ようやく片方が行った。僕が続いた。もう片方が来た。 

 ぼくとAと、マト2人がゲームを開始した。 

 はじまってすぐ、Aの相棒としての手際のわるさも、というよりゲームそ 

のものがヘタなことがよくわかった。本人は遅いマシンを理由にしているけ 

ど。たいして威力のない魔法を連打して、ジャマなだけのFireWall 

が画面にひろがる。 

 PKをねらっているのなら、戦わないんだよ! 戦わせるの。そして、チー 

ターかどうか、DUPEアイテムもらってないか、体力は自然にダメージう 

けているか? 攻撃力は自然か? どのモンスターの攻撃でどのくらいダメー 

ジを受けているか見ろ! 観察してりゃACもおおよそ推測できる。レジス

トはなにが弱いか? 魔法を誤射して、せめて炎と雷、どちらのレジストが

弱いかぐらいはアタリをつけろ。だいたい何%ぐらい体力がへったらHeal

するプレイスタイルか? 武器はFaster系か? 武器の付け替えによ

る体力の増減による相手の装備の推測。魔法の武器、リングやアミュは確実

に自分が拾え、相手に見せるな渡すな。そのために、いつも自分のバックパッ

クを整理し、どの大きさのものがいくつ入るか記憶しろ。やることはいくら

でもある。モンスター倒しているヒマあったら、相手にマウスカーソル会わ

せ続けて尻の穴のシワまでノゾキこめ! このクサレ処女マン! ぼくに魔

法あてんなタコ!! 

 まったく、敵よりバカな味方のほうが怖いのは、どこの世界でも一緒。 

 ぼくは、この4人の中で一番レベルが高いのに、こんな具合に、前に出な 

いし(装備がスカで出れないし)、見た目も貧弱だし、どうやら相手に不思 

議がられたようだった。 



Shin:「G(ぼく)さん、シールドなに使っているの?」 

G   :「アイデンティファイしてない。いま拾ったの装備した」 

Shin:「ヨロイは?」 

G   :「町で買った」 



 後から考えてみたら「町で買った」かどうかを聞いたんじゃなくて、ぼく 

の貧弱な姿と、レベルにつりあわない弱さを問われていると気がついた。シー 

ルドなんて、落ちてたのをバックラーよりマシだろうと、拾ってすぐ装備す 

るほど余裕なかったしね。 

 Aとしめしあわせて強い方から殺すつもりだったが、この2人は、かなり 

強く、ただ突撃をくりかえす戦術だったがタフだった。 

 ぼくは、自分の装備のダメさかげんを呪った。データが消えるまえの装備 

だったら、乱戦にまぎれてダメージをあたえ、モンスターに殺させアイテム 

をバラまかせてやるのに。くそWindowsめ! 屈辱だ。 

 戦闘をしていないぼくやAとちがい、ふたりはレベルもメキメキあがって 

いった。ぼくのレベルがぬかされた。ぼくとAは、ただ後ろからついていく 

だけだった。いつのまにか強い方が、ディアブロを倒していた。 

 いくらなんでも狙った「マト」から、おこぼれのdotをいただいてしま 

うなんて・・・! PKとしての恥だ。 

 ぼくはチャットルームにもどり、相手の勇猛を褒め称え、その日は寝た。 

 すべての日本人への復讐を誓って。 



 Diabloというゲームは、PKしても、まったくおいしくないように 

できている。殺しただけでは相手のITEMを奪えないし、武器の下取りが 

1/4であることだ。つまり、苦労して相手の装備をひっぱがして、全部売 

り出してもたいしたゼニにならない。 

 殺すことだけなら、不意打ちやレベルの差や魔法の誤射によって、カンタ 

ンにできるが、ぼくはPKではない。ドロボーだ。手段としてして強盗する 

こともあるにすぎない。 

 ならば、マジメにPLAYしているほうが実入りがいい。 

 さっきディアブロをたおしてもらった時の(結果的な協力)プレイで、ぼ

くのフトコロには6万ゴールドあった。 



 それで装備をととのえ、「Lion」さんをノーマルのヘルにWhisper 

でさそい、15階のラザレスのとこで、混戦のさなか一撃いれると、タイミ 

ングよく次のモンスターの攻撃でLionさんは死んだ。 

 ぼくは、まわりのモンスターの掃討したあと、彼にリザレクトをかけて即 

殺。 



G   :「ごめんね。実はぼく、どろぼうなの」 

Lion:「がっくし」 



 彼の全装備品と耳をいただいた。 

 このころ、ようやくレベルにふさわしい装備に戻った。 

 とくに「ライトニングソード オブ スピード」は、いままで拾ったアイ 

テムのうちで、いちばん気に入っている。「追加ライトニング1−20・F 

ASTER ATTACK・ベース 3−12・片手持ち」という逸品。 

 アイテムは、全部売却。ぼくのキャラは、短期決戦型タイマンのときに一 

番実力を発揮するようにチューンされているから、どうも、ふつうの人の装 

備はおいしくない。 



 それにしても激動の2日だった。一度も死なずに順調に殺しの手口をおぼ 

え有名になって海外で力をたくわえ、さて暴れようと思ったらデータが消滅 

しアイテム(戦利品)をすべて失った。 

 で、すべてを失った男の逆襲は、そもそも「すべてを失っているから、逆 

襲できない」という現実にぶちあたり、下のレベルのやつにぬかされてdot 

まで恵まれてしまう。 

 でも、しかし、それが「まっとうなプレイ」だったため、ようやく原点復

帰で、最後に耳をとってから7レベル経過してから、ようやく七個めの耳が

とれた。 



 ぼくはチーターは嫌いだけど、やめろ、と言うつもりはない。そういう遊 

び方もあるゲームだろうと思う。だけど、それは、「公式ルールの中ででき 

る限りのことをする」ぼくのプレイスタイルとちがう「別のゲーム」だ。だ 

からぼくは、チーターとはプレイしない。 

 また、チーターの産物である、デュプリアイテム、不自然なアイテムは、 

盗みもしない。ネットワークゲームにおいて、チートは「反則」というより 

「別のゲーム」だと考えるからだ。 

 そんなプレイスタイルを貫いている僕は、ただのPKでなく「相手の装備 

をすべてうばうPK」を、あと何回、成功させることができるだろうか。 



 つづく 



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