第6話 「強敵(とも)よ・・・」


 収穫ナシ: 



 あれから耳がとれてないが経過を書く。ぼくが、なぜPKしながらマメに

日記をつけているかと言うと「しゃべるPK」(しゃべる、PKにやられた

人、ってのは多いけど)がいないことと、自分がDUPEやチートを使って

いないことの証(キャラの歴史に不自然さがない)のためだ。 

 昨日から2レベルあがってるが、「外人からコソドロはしたけど日本人は

殺せない」知人とふつうにプレイしたり、自分で「ASAMA−SANSO

U」というノーパスなルームをつくって独りでやっていた。 

 自分がPKである以上、カタギの人と通常プレイはするつもりはないし、

独りでこそこそ経験値稼ぎする気にもなれない。自分が部屋を作るときは、

ノーパス。ぼくに復讐したい人は入ってくればいい。 

 で、その「浅間山荘」でプレイを試みるが、やたらチート外人に乱入され

(体力が64110もあるT−1000なんて野郎も)、1フロア制覇もで

きやしない。つくってLEFTして、「ZEN−GAKUREN」「WAS

EDA」なんてルームをつくって、またチーターに入られて逃げての繰り返

し。3時間ほどムダにした。 

 でも「ASAMA−SAN−SOU」というルームでしばらく独りでやっ 

ていると、レベル1のひとと、F(仮名)というぼくより3レベル低いひと 

がはいってきた。 

 僕はカタコンベから、レベル1のやつは、なんか「ブッチャー倒していい 

か?」なんて言ってるし、F(仮名)は同じフロアでも、勝手にプレイして 

いる。F(仮名)は、協力もジャマもせず一言もしゃべらずプレイしている 

ヘンなやつだった。まったく、まとまりのないルームメイトばかり。 

 僕は、自分のレベルから、同じか、ひとつふたつ上のキャラでないと「お 

いしくない」ことを知っているし、3時間もバトルネットにいてロクにプレ 

イできないでいたので、とりあえずPKなしでキャラを鍛えたかった。 

 しかし、F(仮名)は、どうも挙動不審で、混戦になると、しょっちゅう

ぼくをなぐる。パーティーアタックがONになってるらしい。それに、こち

らが、何を話しかけてもしゃべらないのも、コワイ。そういや、JOINし

たとき、あいさつしなかったナ。 

 ぼくもパーティーアタックをONにした。ベルトのタウンポータルのスク

ロールを確認。緊急脱出用だ。体力も80%以下になったら、すぐ回復。 

 互いに、混戦になるとポカスカ殴りあう奇妙な協力プレイの中、ぼくは「

同業者だ」と感じた。「ASAMA−SAN−SOU」なんて部屋に入って

くるし、しゃべらないし、もしかしたら、ぼくを知っている日本人か? お

互いにパーティーアタックONのままの協力プレイなんて聞いたこと無い。 

 Fは、ぼくより3つレベルが低いし、同業者のようだし、ちょっと好きに 

なった。 

 そのうち彼は、敵に囲まれて殺され、アイテムをバラまいた。 

 ぼくはいちおう、彼の全装備を自分のフトコロにいれてみた。装備が、ちょっ 

と前のぼくにクリソツ。もしかして、僕の「PK日記」の読者? ま、今の

ぼくには魅力のない装備だし、全部返してやろうと思っていると、Fがタウ

ンから再スタートしてきた。 

 Fは、自分のアイテムのないことを確認すると、ぼくに不平を言うわけで

もなく、なんと、そのままプレイしはじめた。おいおい、こんな奴はじめて

だ。

 自分がバラまいたアイテムが他プレイヤーに奪われるのは当然のリスクと

思っているのか? 

 ぼくは彼の行動に、ポリシー感じて、全部アイテムを返した。 

 彼は、一言「THANKII」とか言った。後にも先にも、これが、唯一

の彼のセリフだ。 

 ポータルで町に戻って、1000ゴールドほど彼の前に置いたときも、当

たり前のように、無言で彼は拾った。 

 ふたたびダンジョンにもどっても、やはり、パーティーアタックはふたり

ともONだ。 

 いいね。こんなにゾクゾクする緊張感ある協力プレイなら歓迎だ。 

 しかし、しばらくして、彼は敵に囲まれてアイテムをバラまいた。僕はな

にもしていない。彼のミスだ。 

 ぼくは「今度はどうしようかな? 2回目は、強盗するべきかな」と、ちょっ 

と悩んだ。が、彼は、恥じ入るようにLEFTした。潔く帰ったのか? つ 

なげなおしてJOINしなよ「浅間山荘」に。しばらく待ったが、帰ってく 

る様子もない。 

 ぼくが持ち帰った彼のアイテムを売却すると、けっこうな金額になった。 

 あんまり実用的でない、彼の、ユニークアイテムのリングは、売らずに記

念にした。 



 いつのまにかテレホーダイタイムになっていた。自分より、ちょっとレベ 

ルの高い人がいない。また、時間をムダにウロウロした。僕が初めて殺した 

人は、いまの僕より3つレベルが上だ。やはり、ぼくのようなPK人生は、

効率が悪いのかもしれない。 

 レベル1の人から、協力プレイをささやかれた。テキトーに返事をして、 

相手にしない。

 かなりの時間がたったあと「mena」さんが来ていた。そして、「mao」さ 

んから、誘われる。ちょっと不自然な誘い方だ。よっぽど親しくなければ、 

10人以上いる部屋で、名指しで指名はしないだろう。 

 僕はOKした。レベルが僕より3つ上の魔術師の「mao」さんだが、勝算は 

ある。それはキャラクターの強さでなく、プレイヤーの心の問題だ。相手は、

たぶん、意識的な殺人をしたことがないはずだ。ぼくだって、初めての時は、

記憶がなくなるくらい動揺した。

 たとえ「バウンディーハンター」という大儀名分があちらにあっても、相

手は初めての殺人にパニックになるだろう。

 映画でオヤクソクの「ピストルの安全装置をハズしていないヒットマン」

を、ぼくは笑えない。

 このゲームで一番のミスは、冷静さを失い状況判断を誤ることだ。ぬくぬ

くしたお友達プレイの中では、キモの太さだけは、学ぶことができない。 

 そして、あまりのデキスギのタイミングで、もうひとりが名乗りをあげた。

しかも、レベルの高い別のキャラクターでJOINしなおすだと。 

 ぼくは「mena」さんがいたことや、彼らとの会話の不自然な「間」にあっ

たはずの「ささやき」を想像した。 

 2対1か。ふたりともレベルが僕より高い。が、すぐにOKした。 

 数が多いから有利とは限らない。たぶん、かれらのレベルが低かったら警

戒しただろう。レベルや人数という数字上の優位から誘っているデジタルな

感覚に、甘さも感じる。 

 もし、彼らの一方がレベルが低かったり無関係だったら、僕が欲張って引

きぎわをまちがえたり、まきこむかどうするか対処に迷うかもしれない。し

かし、ふたりとも、僕よりレベルが高くグルならばカンタンじゃないか。 

 二人とも警戒し攻撃し、ヤバくなったら逃げればいいんだ。タンジュン。 

 「mao」さんが、部屋を「mao/mao」で作るという。 

 で、JOINしてみると、すでに「同名・同パス」の部屋があって、チー

ターが二人いてアイテムのトレードをしていた。おもわぬ事態発生。しかも

マヌケな。

 ぼくと「mao」さんは、とりあえずチャットルームに戻り、「maon/mao」

で始めることにした。

 しかし、いまのアクシデントで、「mao」さんはツレとはぐれてしまった。

ツレは「mao/mao」に行っても、ぼくらでなくチーターがDUPEアイテムを

交換していることに驚くだろうし、ぼくらが部屋を「maon/mao」に変更した

ことも知らないのだ。 

 ぼくは、ベルトのひとつをタウンポータルにして、あとは、ぜんぶフルレ 

ジュビネーションで埋めた。 

 たぶん、勝てるだろう。タイマンになってしまったし、心理戦では僕が圧 

倒している。 

 ぼくは残酷な笑みをうかべながら、「mao」さんにカーソルをあわせ、彼の

能力を値踏みした。

 そうこうするうちにタウンから、いきなり「mao」さんが消えた。計画が狂っ

て逃げたのか? チャットルームにもいない。

 「mao」さんは、二度とバウンディーハンターなんてやらないだろうね。 



 チャットルームに戻ると「MASA」さんが、「二人で行きたい。経験値 

稼ぎたい」と言っていた。一番レベルが近いのはぼくなので、「行きましょ

う」と言うと彼はOKした。彼の方が2つレベルが高い。 

 僕が「masa/masa」で、部屋を作ろうとすると、すでに、あった。

 今日は、よく部屋の名前がかち合う。 

 そのむねをつたえにチャットルームにもどると、誰も返事をかえさない。 

「MASA」さんにウィスパーしても返事がない。15人もいる部屋なのに、 

5分ほど沈黙がつづく。みんな、僕の正体を知っていて「MASA」さんを 

引き留めているのか? 

 不自然な沈黙は、ずっとつづく。 

 ぼくも、ちょっとは有名になったらしい。 

 ぼくは満足して寝ることにした。 



 つづく


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